火精
第1話・・・「柏木有宇子」

「はあ・・・」
 昼休み、ため息を憑きながら窓際の一番後ろの席から教壇で友達と世間話をする「彼」を見つめる。
 彼の名前は「橘聖人」、わたしとは一年生のときから同じクラスだ。成績は学年トップ、運動神経も抜群、身長は170センチ以上ある、上級生や下級生、さらには他校にまでファンクラブや親衛隊があるほどカッコイイ。わたしみたいな「発育不良」のちんちくりんとはとてもじゃないけど釣り合わないだろう・・・

「なに、黄昏てるのよ?」
「ひぃっ!」
 不意に両脇の下から手が伸び、私の薄い胸にタッチした。
「『ひぃっ!』・・・だって、きゃはははは」
 振り返ると、幼稚園時代からの悪友の「富樫由紀」が、ニコニコしながら、わたしを見下ろしている。
「また、橘クン?有宇子も意外とミーハーよねぇ」
「ミーハーじゃ無いモン」ッとした顔をして、にらみ返すと、彼女はちょっと呆れた表情で、
「いくら言い訳したって、学校で、一番人気の男の子に恋焦がれてるのは、端から見たらミーハーよねぇ」
「ううぅ・・・」
 由紀の言葉に、わたしが反論できず、ちょっと涙目になって、上目使いに見上げると、彼女は普段から、ちょっとたれ目がちな目に嬉しそうな表情を浮かべると、わたしの頭を、抱きかかえて、中学生離れした巨大なバストに、わたしの顔を無理やり押し付け、
「う〜ん、その表情たまらない〜、有宇子のその『可愛い』顔を見たくて、わざと意地悪なこと言いたくなっちゃうのよねぇ〜」
と、更に腕に力を入れる、わたしの顔がますます彼女の豊満なバストに埋まり、呼吸が苦しくなってくる、健全な男子なら気持ちがイイだろうけど、あいにくわたしは、健全だが一応女の子だ。
 しかも、彼女の巨乳は、「お子様体形」のわたしにとっては、気持ちがイイどころか、コンプレックスの対象でしかない。
「も〜」と、由紀の腕を振りほどき、立ち上がる、160センチと、中学生にしては長身の由紀に対して、145センチと、小学6年生の平均身長より低いわたしは、立ち上がっても彼女を見上げたままだ。
「止めてって言ってるでしょ、『それ』嫌いなんだから」
「だってぇ〜、有宇子のあの仕草、『可愛い』から母性本能くすぐるのよねぇ」
 『可愛い』、また言った・・・由紀のことは好きだし、親友だと思っているけど、彼女にその言葉を言われると無性に腹が立つ。
 背が高く、プロポーションもイイ、その上目鼻立ちもハッキリしてて、顔は卵型で、ハッキリ言って美人、普段でも高校生、化粧でもすれば女子大生かOLにでも間違えられそうな彼女、それに較べてわたしは、身長も体形も小学生、顔も丸顔の童顔で、制服を着ていなければ誰が見ても小学生だ。
わたしは、プイと廊下に向かって歩き出した。
「どこ行くのよ?」
と、由紀、
「トイレ・・・一人で行くから、ついて来ないでイイから・・・」
 おそらく、彼女は不思議そうな顔で、わたしを見ていたにちがいない・・・

「はぁ〜・・・」
 今日2回目の大きなため息、本当にトイレに行きたかったわけではないわたしは、トイレの前の廊下の壁に、寄りかかったままボケーっと突っ立っていた。
「あれ、柏木さん、こんな所でなにしてるの?」
 不意に声をかけられ見上げると、目の前に橘くんが、ちなみに、柏木というのは、わたしの苗字で、フルネームは「柏木有宇子」だ。
「にゃん?」
 不意の質問に驚いて、意味不明な返事をしてしまい、わたしは、顔を真っ赤にしてうつむいた。
「え、え〜、何してるって?」
 動揺しながらも、なんとか返事をする。ただ、普通に話しているだけなのに、心臓の鼓動のペースは、かなりアップしている。
「だって、さっきから、トイレの前にずっと突っ立ってて、誰かを、待っている様子でもないしさ」
「ずっとって・・・た、橘クン、見てたの?」
 わたしより、頭ひとつ背が高い彼、制服のネクタイを少し緩め、ワイシャツの第一ボタンと、ブレザーのボタンはすべて外して、両手をスラックスのポケットに入れてる、普通ならだらしがない格好だけど、彼がすると、だらしがないどころか、様になっている。
 こっちを見る、彼のきれいな瞳に、わたしの、ほうけた顔が映っている。
 また、鼓動のペースが上がる、このまま、爆発しそう、ただ、話しているだけなのに。
 も、もしかして、ずっと見てた?なんで?
 まさか・・・少なからず、わたしに好意を寄せてるとか?
「いやさ、さっき、職員室へ行く前から、ずっとここにいたから、何しているのかと思って」
 あ・・・わたしの淡い期待は、もろくも崩れ去った。
 いや、『通りすがりに気になった』ってのだけでもポイント高いかも?わたしのことなんとも思ってなければ、ここに立ってたことにだって、気がつかないはずだ。ちょっとは、ポジティブに考えてみよう。
「べ、べつに・・・ちょっと考え事」
「トイレの前で考え事って、まさか・・・」
 え?トイレの前で考え事って、何か問題でも?
 橘クンは、真剣な目でわたしを見つめる。
「まさか・・・」
 なんなの?心臓の音が、聞こえてきそうなくらいに高鳴る。
「まさか、どっちをしたいんだか、忘れちゃったとか?」
「はぁ?」
 一瞬、意味がわからなくて、考えてしまった後、わたしはまた、顔に血液が集中するのを感じた。
「そ、そんなわけないじゃない、ボケ老人じゃないんだから」
「ははは、やっぱ、そうだよね」
 彼は左手を後頭部に当てながら、笑ってる。
「も〜、ビックリした。橘クンたら、真剣な顔して言うから、トイレの前で考え事すると、何かあるのかと、思っちゃった」
 ほっとした、でも、橘クンが、こんな冗談を言うなんて、ちっとも知らなかった、すこし、親近感がわいた。
「あ、やばい、もうこんな時間だ、柏木さん、ボーっとしてると、5時限目の授業始まっちゃうよ」
 彼は腕時計を見ると、そう言ってわたしの二の腕を軽くつかむと、教室の方へ促がしながら引っ張り。
「5時限目は数学だよ、伊能の奴だ。遅れたりしたら煩いから、さっさと教室に行こう」
 そのまま、ふたりで教室まで、数学の伊能先生の悪口と、先週出た宿題のことなどを話しながら、教室へ向かった。
 今日は、なんてついているんだろう、橘クンとこんなに話が出きるなんて、しかもふたりで、こんな自然な感じで、今日は人生最良の日かも?さっきまでの嫌な気分はすっかり忘れて、教室まで至福のときを過ごした。当然午後の授業はすっかり上の空で、まったく身にならなかったのは、言うまでもない。

もどる

動画 アダルト動画 ライブチャット