火精
第8話・・・「記憶」

 わたしは全裸でキングサイズのベッドの上に寝ていた。
 ご主人様は制服のブレザーだけ脱ぎわたしのすぐ傍らに腰掛けている。

 ご主人様の家に着くと、わたしは裸のまま幼児のようにご主人様に手を引かれてこの部屋までやってきた。途中家人ともすれ違ったような気もしたが、あまり記憶にない、ご主人様と手を繋いでいるという安心感だけが感情を支配していて、羞恥心などというものはまったく生まれてこなかったようだ。
「ここがあたしのお部屋よ」
 そう言って通された部屋はどう見てもリビングだった。高給そうなソファセットが置かれ、大型のテレビとAVセットが並んでる。
「そっちの奥が寝室、左が勉強部屋で、右がシャワールームとトイレよ」
「……」
 ご主人様の説明にわたしは絶句してしまった。2LDKのマンションのスペース丸ごとご主人様のプライベートルーム、そんな感じだった。
 そしてわたしは十畳はあろうかという寝室に通されて、ご主人様の為すがままに両手足を拘束されてしまったのだ。

 わたしは裸のまま、身体を胎児のように丸め、蛍光灯の光に曝されている。
 ものすごく不安だった……ご主人様が肌に触れていない。まるで母親から引き裂かれた赤子のように……
「ごしゅじんさま、おねがい、ゆうこのことさわってて、でないとゆうこ、さびしくてどうかなっちゃいそう……」
「だめよ」
 そ、そんな……ご主人様は冷たく拒否した、さっきまであんなに優しく、有宇子のことを触って、撫でてくれていたのに……なんで?
「有宇子はいつまでも赤ちゃんねえ……」
「だって、ごしゅじんさまが、ゆうこはあかちゃんだって……」
「そうね、でも、あたし有宇子に大事なお話があるの、聞きたいことが。だけど、赤ちゃんの有宇子とは大事な話し、できないなあ……」
 え?
「ゆ、ゆうこ、あかちゃんじゃだめ?」
「う〜ん、あかちゃんの有宇子も可愛くて良いんだけどね。ほら有宇子、あたしの目を見て」
 わたしはご主人様の目に見入った。吸いこまれるような目だ。
「有宇子は何歳?」
「……十三歳」
「何年生?」
「……中学二年生」
 わたしは催眠術にかかったように、ご主人様の質問に答えた。
「十三歳の中学二年生はあかちゃんじゃないわよねえ?」
「……はい」
「じゃあ、有宇子はあかちゃんじゃないわね?」
「ゆうこは、有宇子はあかちゃんじゃ……ありませ……」
 は……わたしは突然羞恥で真っ赤になった。
「わ、わたし、なんで?」
 保健室での醜態、車の中でご主人様に赤ちゃんみたいに甘え、そして家の中とはいえ裸でご主人様に手を引かれてここまで歩いてきた、しかも家の人に見られてる……信じられない、なんで? 
 自分が自分でないようだ、意識や記憶がはっきりしているのに、ご主人様の言いなりに赤ちゃんみたいになったり、元に戻ったり。それでいて、どこか客観的に遠くから自分のことを見ているような……わたし、変になってる、昨日の視聴覚室でもあんな事されたのに、恥ずかしくて嫌だったのに、最後には喜んでいた。そして、ペットになる約束までされてしまった。それが嫌じゃない、同級生の、同じ女の子のペットに……それが何で嬉しいのか、安らぎがあるのか、わからない……
 それに、由紀にまであんな姿見られて……
 あぁ……もう学校行けない、恥ずかしくて由紀に会えないよ……
「有宇子、恥ずかしがってる場合じゃないの、大事な話があるって行ったでしょ」
「でも、でもご主人様ぁ、わたし、あんな恥ずかしい……」
「黙りなさい」
 ご主人様はわたしの言葉をさえぎった。
「ううぅ……」
 わたしは唸り声を上げるた、目が怖い、まるで最初の時の目だ……
「いい? これからする話はあなた人生にとってものすごく大事な話しなの、だからちゃんと聞いて答えて欲しいの、わかった?」
「はい……」
 わたしは素直にうなずいた。
 でも、わたしにとって、わたしの人生にとって大事な話ってナニ? 『有宇子は人間じゃない』……不意に今朝のそんな言葉を思い出した。
「率直に聞くわ、安藤君はどうしたの?」
「え?」
 安藤……わたしをレイプしようとした男……
「わ、わかりません、わたし気を失って……」
 正直に答えたつもりだった、本当にナニも覚えていないのだ。
「違うわ」
 ご主人様はあっさり否定した。
「有宇子、あなたは彼がどうなったのか知っている。何故ならあなたが彼を『殺した』からよ」
「……」
 こ、殺した? わたしが奴を?
「な、何言ってるんですか、わたしが安藤を殺せるわけないじゃないですか、いくらあいつがモヤシみたいな奴だからといって、一応男ですよ、こんな小学生みたいなわたしがどうやって殺すんですか? それに死体は? わたしが死体を持って隠せるはずないじゃないですか……」
 ご主人様はわたしの目を悲しそうな顔で見る。
「や、やだ、ご主人様、冗談言うならもっと笑ってってくださいよ。そんな真剣な目して言わないで……ねえ、ご主人様、冗談でしょ? わたしが安藤を殺したなんて冗談でしょ?」
 ご主人様はそっと首を振ると、口を開いた。
「有宇子、あなたが安藤を焼き殺したのよ。死体がなくなるまで跡形もなく焼き尽くしたの、あなたの『炎』でね」
 ほ、炎、や、焼き尽くした? そうだ、わたしが安藤を殺した……「人ならざる者」の力で。そして思いだした。「人ならざる者」の太古よりDNAに受け継がれつづけた先人たちの記憶。わたしは人間じゃない。
  怪物、野獣、モンスター、未確認生物、妖怪、悪魔……そして「神」、人間たちはわたしたちを様々な名で呼ぶ。
 そしてご主人様もまた人間ならざる者の血を引き継いでいる。
 わたしの右手から青白い炎が噴き出して、安藤を包み込む、奴は声もあげるまもなく、灰も残さずに焼き尽くされた……
 「殺した」わたしが「殺した」安藤を……「人殺し」わたしは「人殺し」だ……嫌だ、「人殺し」なんて嫌……嫌、嫌、嫌……
「いやっっっっっーーーーーー」
 わたしは絶叫した。幼児が駄々をこねるようにベットの上で身体を弾ませ、首を左右に振り髪を両手でかき乱す。
「嫌、人殺しなんて嫌、助けて、ご主人様助けてっ」
 わたしは泣き叫ぶ。
 不意にわたしの頬に冷たいものが触れた、見るとご主人様の手だった。ご主人様はじっとわたしの目を見つめる。優しく慈愛に満ちた目で。
 ああ、ご主人様……わたしはご主人様に抱きついた。
「ご、ご主人様……」
「有宇子……」
 ご主人様はわたしをシッカリ抱き寄せて、髪の毛を撫でてくれた。わたしはご主人様の胸の中で泣きじゃくる。
「思い出したの?」
 わたしはうなずいた。
 わたしは人間じゃなかった。
 魂の奥から呼び出された、先祖から脈々と受け継がれる人外の記憶と力……
「ご主人様……」
 わたしはご主人様を抱きしめる手にさらに力をこめた、二度と離さないように……

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