双神
EPISODE I

 名門市立英明学園、土曜の午後の体育館、授業はとっくの終わったにもかかわらず、大勢の生徒、特に女子生徒でごった返していた。お目当ては県内トップクラスの中学舎男子バスケットボール部の対外練習試合だった。その中でも最大の注目は、二年生エース背番号9を背負う天城伊知郎。別名「中学舎で二番目に人気のある男」だ。
 ポジションはセンター、百七十七センチと中学生にしては大きな体格ながらスピードもあり、視野も広く外角のシュートも強い、いわゆるオールラウンダーだ。
 相手のシュートミスを、そつのないポジショニングからリバウンドを奪い、キャプテンでポイントガードの江原にパスし、そのまま相手コートのハイポストまで走り、激しいポジション争いに勝つと、江原からパスがくる。素早く反転しゴールを見据え、ワンフェイクいれ、マーカーを外しゴール下にドリブルで切れこむ。ディフェンスが一人二人と寄せてくるが、それをものともせずに、得意の左手のレイアップシュートを決めた。本日12点目のゴール。
「きゃーーーー!!」
 応援の女子生徒たちの黄色い声援を涼しい顔で受ける。伊知郎は女性とたちからどんなに熱い応援があろうが、どこ吹く風だ、彼の眼中にあるのはただ一人、二階スタンドの一番前でちょと不機嫌な顔でこっちを見ている、肩までのショートカットを、二つに分けてゴムで結わいているメガネをかけた少女、いや、美少女、生まれたときからの幼馴染であり、伊知郎が「二番目」に甘んじている理由でもある、「全校生徒公認の彼女」雨宮あかりただ一人だった。
 伊知郎はあかりに向かってブイサインをだす。あかりはプイと横を向いた。
 あかりにすれば面白くないのも当たり前だ。どうしても応援に来てくれと頼まれ自分もバレー部の練習があるのにもかかわらずそっちをサボって来てみれば、この女子生徒の数、いくら大多数がミーハーなファンとはいえ彼女と呼ばれる自分の目の前でこのモテよう。ここで応援している女子生徒全員が、伊知郎には自分という存在を知っているのだ。だったら少しは遠慮ってモノをして欲しい……彼氏が全く他の女の子に見向きもされないのも悲しいが、モテ過ぎるのにも限度ってものがある。
「あなた、雨宮あかりさん?」
いらいらとコートを見据えていると、隣から突然声をかけられた。振り向くと燃えるような赤い髪の女子生徒――制服のネクタイから判断すると高等学舎の――が立っていた。
「は、はい」
(あ、この人……)
 あかりはの先輩のことを知っているような気がした。。たしか、てこんどーとかってので、日本チャンピオンだった……
「あたし、風間奈緒」
(そう、風間奈緒先輩)
「は、はい知ってます」
「へ〜、あたしのこと憶えているんだ」
 奈緒は少し感心した、奈緒が道場を破門されテコンドーを辞めたのが約二年前だ、その頃あかりはまだ幼稚舎にいたはずだ。
「え、ええ、か、風間先輩カッコイイし、幼稚舎の女子の中でも人気あったんですよ」
「カッコイイ? あたしが? ふ〜ん知らなかった。でも、雨宮さんには「彼」がいるじゃない」
 奈緒はチラッとコートに目をやって言う。
「あっ……」
 あかりはポッと赤くなった。高等学舎の人まで自分達の事知ってるなんて……
「でも、恋人なんでしょ? 上でも有名よ、あなた達」
「か、か、恋人だなんて……」
「違うの?」
「いえ、その、一応、みんなそう言ってますけど……」
 あかりはなんか、恥ずかしくなってきた、伊知郎の彼女と世間的には呼ばれている、伊知郎の事を好きだし、他の女の子達にちやほやされるのを見て嫉妬もするが、「恋人」か? と問われると、ハテナマークが出てきてしまう、お互い子どもなのか、長い間一緒にいすぎて距離が近づきすぎてしまったのかわからないが、少なくとも周りが思っているほどの関係ではないと思っている。
「恋人じゃないんだ? じゃあ、あたし狙っちゃおうかな?」
「え?」
(ね、狙うって、伊知郎の事好きなのこの人?)
「あなた、かわ……」
「きゃーーーー!」
 奈緒の声は突然の歓声に打ち消された。再び伊知郎がゴールを決めたためだ。
「ねえ、ここで立ち話もなんだから、後でちょといい?」
 奈緒は耳を両手で押さえながら言った。
「は、はあ」
 あかりは気の無い返事をした。
「じゃあ、試合が終わったら、銅像の前で待ってるわ」
「銅像って、創立者像ですか?」
「そう、じゃあね」
 それだけ言うと奈緒は勝手に話をまとめると、ウインクをしてスタンドから去っていった。
「なんなんだろう、話って……」
 あかりは歓声の中ひとりほうけていた。

(ナニやってるんだ、あいつ?)
 伊知郎はコートからスタンドでぼけっと突っ立ているあかりの事を気にしていた。彼がバスケットをやっている理由は「あかりに良い所を見せたい」それだけの為である、苦しい練習に耐え「全国区の選手」になったのも、あかりに良い所を見せるために頑張った結果なだけで、本人は全日本とかNBAとかを目指しているわけでは全く無い。あかりが「NBAで活躍するいっちゃんを観たい」と言えば、死ぬ気で頑張って日本人初のNBAプレーヤーを目指すかもしれない。ただ、日本バスケット界に不幸なことに、あかりはそんな無茶を言いはしない、ただ小学生の体育の授業でバスッケットをする伊知郎を見て、「バスケしてるいっちゃんカッコイイ」と一言発したために今の伊知郎が存在するのである。
 したがって、あかりが試合も観ずにそっぽを向いていると、気になって全く試合に集中できない。
「天城!」
 キャプテンの声が聞こえた瞬間に側頭部に強い衝撃を受け、伊知郎の視界は真っ白になった。
「げ!失神したか?」
「担架持って来い!」
「伊知郎ク〜ン!!!」
 悲鳴と叫び声が体育館を飛び交う。
 伊知郎がゴール下でぼけっとしていた為に、リバウンドに飛んだ相手選手の肘が伊知郎の側頭部にもろに激突したのだ。

「いっちゃん大丈夫?」
 あかりが、保健室のドアを勢い良く開けると一斉に三人の視線が当てられた、保険医の真島先生、男子バスケ部マネージャーの三年生小野知恵、そしてベッドに座ってる「いっちゃん」天城伊知郎だ。
「い、いっちゃん?」
 知恵が伊知郎の顔を見て指差す。
「これがいっちゃん?」
 こくんとあかりはうなずいた。知恵は腹を抱えて笑い出した。
「い、い、……いっちゃんだって……く、くくくくくくく……」
 伊知郎は憮然とした表情でそれを見ている
「雨宮さん、保健室では静かにね」
 真島は知恵を完全に無視して、あかりに注意をした。
「す、すいません、真島先生」
 あかりは素直に頭を下げてあやまった。
「軽い脳震盪だから、もう大丈夫よ」
「よかった〜、心配したよいっちゃん」
 あかりは伊知郎に向き直った。伊知郎はまだムッとしている。
「あ、そうそう、あたし体育館に戻らないと、天城、コーチが気がついたら練習イイから家に帰れって言ってたから、もう帰りな。雨宮さん、悪いけどコイツ送っていって、あなたにも責任あるんだから」
「責任?」
 伊知郎の怪我に自分がどう責任があるのか、あかりには不明だ。
「理由はいっちゃんに聞きなさい……ふふふ」
 そう言うと知恵は「じゃあね、いっちゃん」と一声かけて保健室を出ていった。
「責任てなに?」
 あかりの質問にも、伊知郎はムッとして答えようとしない。
「ナニ怒ってるのよ?」
「月曜には学園中の人間が、天城君をいっちゃんって呼ぶわね」
「あ……」
 真島先生の指摘であかりはやっと気がついた、学校では、他の人間の前では「いっちゃんと呼ばない」七年間守ってきた約束を、心配のあまりすっかり忘れてしまっていた。
「ご、ごめんなさい……」
 さっきから、あやまてばかりだとあかりは思った。
「あ、私もちょっと用があるから、席外すわね、天城君の荷物そこにあるから、落ち着いたら帰っていいわよ。あと、大丈夫だと思うけど、一応打ったの頭だから、病院行った方がいいかもね」
 そう言って真島先生はカバンを持って出口へ向かおうとしたが、「あっ」と、途中で引き返し、あかりに何か手渡すと、
「ちゃんと避妊しなきゃだめよ」
と、ウインクして出て行った。
 重い空気が保健室を支配した。
 これまで何度も二人っきりになったことはあるが、こんなに息苦しい思いをしたのは初めてだ。
(ま、真島先生、余計なこと言うから……)
(ひ、避妊って……あたしといっちゃん?……)
 二人はお互いの顔を見ては目をそらしてうつむいてみたり、上を向いてみたりなんとも過ごしがたい時間が、体感で一時間ほど過ぎた。実際は五分と経っていなかったが。
「あ、あかり」
 最初に沈黙をやったのは伊知郎だった。
「うん?」
「さっきなに貰ったんだ?」
 伊知郎は先ほど真島があかりに何を渡したのか聞いてみた。あからいがぎゅっと握っていた手のひらを開くと、見馴れない小さな包みが二つある。
「なんだろ?」
「どれ見せてみ……な、何考えてんだあの先生」
 伊知郎はあかりの手の上に乗っているものを見て、真島に大して呆れかえった。
「? なんなのこれ?」
 あかりはまだソレが何なのかわからない様子だ。伊知郎はそれをあかりの手から取ると封を切って中身をあかりの手のひらに落とした。
「きゃっ……なに!も〜」
 あかりはそれを伊知郎の顔面に投げつけた、ぺちっと伊知郎の頬っぺたにくっついたのは、毒々しいカラーリングのコンドーム。
「お、お前なあ……」
 頬っぺたにコンドームをくっつけたまま、伊知郎のこめかみがヒクヒクしている。
「こんなの顔に投げつけるか? 普通……」
 伊知郎はそれを顔からとると、ごみ箱に投げ捨てた。
「だって、いっちゃんがそんなの急によこすから、ビックリして」
「だいたいあかりが悪いんだ、試合観ないでよそ見してるから、気になって……」
「あ……」
 知恵が言った「あなたの責任」の意味がやっとわかった。
「それで試合中なのにボーとしてぶつかって脳震盪?」
「そ、そうだよ、あかりが見ていないんじゃ、バスケやってる意味がない」
 伊知郎は断言した。
「そ、それじゃ先輩達に悪いんじゃ……?」
「先輩達はそれで納得してるからいいんだよ。だいたいあかりがバレー部なんて入らないで、マネージャーやってくれれば……」
 あかりは女子バレー部に所属していた、背は低いがセッターとしての才能、それと他の二年や一年からの信頼が厚いために次期キャプテン候補だ。
「嫌よ辞めるの、せっかく試合にも出られるようになって、楽しくなってきたのに」
「……」
「……」
 また沈黙が保健室を支配する。
 沈黙に耐え切れずに伊知郎がつぶやいた。
「帰るか?」
「……あ、そうだ!」
 あかりは急に奈緒との約束を思い出した。試合はすでに終わっている時間だ、だいぶ待たせている。
「どうした?」
「あたし、高等の風間先輩に呼ばれてたんだ」
「風間?……あの髪の赤い?」
「うん」
「なんで?」
「わからない」
「どこで待ってるんだよ?」
「銅像で待ってるって」
 ああ、あそこか、創立者像は学園の生徒達の待ち合わせスポットだったので、伊知郎はピンときた。
「じゃあ、行くか? 着替えるから外で待ってて」
「いっちゃんも行くの?」
「おまえ、怪我人一人で返す気か?」
「まあいいか、一人で来いとは言われなかったし」
 そう言って奈緒は保健室から出ていった。

「あら、お二人そろってきたのね」
 試合が終わってからだいぶ待たせたはずなのに、奈緒はまたっく怒っている様子もなく、笑顔で二人を出迎えた。
「すいません、遅くなりました」
 今日何度謝った事かとあかりは思った。
「俺がついて来たら拙かったですか?」
「良いのよ別に、天城君にも無関係な話じゃないし」
 奈緒は笑顔で答える。
(綺麗な人だな)
 初めて間近で奈緒の顔を見て、伊知郎は素直に感じた。
「ここじゃなんだから、ちょっとどっか入りましょ、おごるから」
 そう言って歩き出す奈緒の後を二人は黙って付いて歩く。校門を出て駅のほうへ向かう、二人の家とは反対方向だったが、帰りにデートをかねた寄り道くらいなら何度もしていたので、特に寄り道に対して罪悪感はなかった、それに奈緒が学園の先輩、しかも幼稚舎からの「生え抜き」だったので、不安もなかった。
 英明学園は小中高大と一貫教育である。中高大と途中から入る生徒もいるが、幼稚舎から在学している「生え抜き」と呼ばれる生徒たちには、奇妙な連帯感や信頼感があった。普通なら伊知郎のような人気のある男子を独占しているあかりに嫌がらせの一つもありそうだが、そんなものは全くなく、微笑ましい二人の関係をみんな見守っていた。そのために、初めて声をかけて来た奈緒の後も、何の心配もなくノコノコ付いて来た。
 逆に途中入学の「外様」に対しては多少排他的なところもあり。いじめなども皆無ではない。
「どこまで行くんですか?」
 駅付近の繁華街に入りだいぶ経ってから伊知郎がやっと口を開いた。
「あなた達、警戒心無いのね」
「え?」
 あかりは聞き返した。
「知らない人の後ついて来ちゃダメて、幼稚舎で習ったでしょ? もう忘れた?」
「で、でも、風間先輩、学園の先輩だし……」
 あかりは急に不安に襲われた。
「でも、知り合いじゃ無いだろ?」
 後ろから突然声をかけられ、二人は振り向いた。五、六人のそろいの赤いブルゾンを着たいかにも悪そうな女子高生がニヤニヤしながら立っている。
(こ、こいつ等……)
 伊知郎は赤いブルゾンに目が行った。この付近の人間なら誰でも知っている赤いブルゾン。
「あら、知ってるんだ?」
 にこにこしながら奈緒は伊知郎のことを見ている。
 周りには急に人影がなくなった、みな赤いブルゾンを見て逃げたのだ。
「どういう事です? 風間先輩」
 伊知郎の目が険しくなる。
 あかりは意味もわからずおろおろしながらも、しっかりと伊知郎の右腕に抱き付いていた。
「そんなに怯えないでよ、雨宮さん、これから仲良くなるんだから?」
「仲良く?」
 あかりは首をかしげた。この人達とどう仲良くなるだ?
「あかり、相手にするな帰るぞ!」
 伊知郎はあかりの手を引いて歩き出した。あかりは慌てて歩調を合わせようとすると、いきなり後ろから両肩を掴まれ、伊知郎につかまっていた手を離してしまう。
「きゃっ」
「帰るなら一人で帰りなよ」
 今度は三人組みの男だった、三人とも髪の毛を茶色や赤く染め、耳や鼻はピアスだらけだ。
「なかなか可愛いジャン、奈緒さんやっちゃってイイの?」
 チャパツがやらしそうな目であかりを値踏みする。
「やだぁ」
 あかりが泣きそうな声で悲鳴を上げると、赤毛があかりの顎に手をかけ、自分の方に顔を向けると、息がかかるほど口を近づけた。タバコとシンナーの臭いが入り混じっている。
「気持良くしてやるからよ」
 そう言ってあかりの顔を舐めた。
「て、テメエー」
 伊知郎が赤毛に殴りかかろうと向かうと、奈緒が伊知郎の前に割り込み、膝蹴りを伊知郎の腹に叩きこんだ。
「ぐぅ」
 伊知郎はそのまま悶絶してしまった。
「いっちゃん!」
 あかりの悲鳴が上がる。
「おい、誰がそんなことしてイイって言った?」
 奈緒は赤毛を睨みつけた。
「え?」
 赤毛の顔色があっという間に真っ青になる。
「誰が舐めろって言った?」
「だ、誰も……」
 男は蚊の泣くような声で答えた。完全に奈緒に畏怖している。
 奈緒はいきなり男の顔面にハイキックを入れると、男は鼻血を出して膝から崩れ落ちた。うめき声を上げて鼻を押さえ転げまわっている、どうやら鼻の軟骨がつぶれたようだった。
「お前等帰ってイイ」
 奈緒が男達に言うと、男達はあかりを離し、鼻のつぶれた男に肩を貸しながら、逃げるようにその場を去った。
「い、いっちゃん大丈夫?」
 開放されたあかりは、悶絶している伊知郎にすがりついた。
「内臓ぐらい破裂しているかもな」
 奈緒は他人事のように言った。
(な、内臓破裂!)
 あかりは真っ青になった。
「お、お願い、救急車!」
 あかりは奈緒の足にすがり付いて叫んだ。奈緒は冷ややかな目であかりを見下ろす。
「救急車呼んで!、いっちゃん死んじゃう!」
 さらに懇願するあかりを奈緒は足で払うと、
「つれて行くぞ」
と、赤いブルゾンを着た女子高生達に命令をした。
 赤いブルゾンの背中には「Evil Angel」と金糸で刺繍されていた。

 伊知郎が目を覚ますとそこは古びたバーだった。テーブルや椅子には誇りが積もり、カウンターの奥の棚にもなにも並んでいない。閉店して借り手が無いまま放置されていたのだろう。そこの床に伊知郎は寝かされていた。
 身体を起こそうとしたが両腕が動かない、上半身をロープで拘束されていた。
「いっちゃん!」
 自分を呼ぶ声がしたのでそちらに目を向けると、明かりが心配そうな顔で見ている。両脇を赤いブルゾンの女が二人で押さえつけていた。
「ナイト様のお目覚めね」
 反対で奈緒の声がした、振り向くと着替えたのか制服と違う超ミニスカートを穿き、他の女たちと同じブルゾンをきた奈緒が立っていた。ミニスカートから伸びる奈緒の足は、格闘技をやっていたとは思えないほど、傷一つ無く、細く筋肉も引き締まり美しかった。
「か、風間……」
 伊知郎はやっと声を出した。
「先輩を呼び捨て?」
「う、うるさい! 人にこんなことして、先輩ヅラするな!」
「ふふ、威勢が良いわね、そんな格好で」
 そう言って床に寝ている伊知郎を蹴り転がした。
「あたしにそんな口聞くなんて、死にたい?」
 伊知郎は背中が凍りついた、まるで猛禽のような目で奈緒は伊知郎を睨みつけている。
(ほ、本気で殺される……)
「リーダー、その子食べちゃってイイですか? なんかカワイイし」
(り、リーダー? か、風間先輩がこいつ等のリーダー……)
「あら? あんたがあたしのことリーダーって呼ぶから、この子ビビッちゃったみたい」
 奈緒は笑いながら言った。
 伊知郎は恐怖に凍りついた、イビル・エンジェルのリーダー、それはこの街の恐怖の象徴だった。逆らったら間違い無く殺される、だが、逆らわなかったら自分達はどんな目にあうんだろう……
「食うのはダメだけど、遊んでやるのはかまわない」」
 奈緒は伊知郎に興味を持った女に言った。
「邪魔にならない程度に、適当に遊んでやれ」
 奈緒にそう言われると女たちは傷ついた草食獣を見つけたハイエナのような目で伊知郎を見下ろし取り囲み、一人が伊知郎の腹を蹴りつけた。
「痛めつけたり、辱めたりするのはOKなんですね?」

 そう言って奈緒は明かりに近づき、あかりの頬にそっと手をやる。
「ねえ、あたしの質問に答えて」
 あかりは恐怖で声も出なかった、イビル・エンジェルのリーダーがどんな存在かあかりも知っていた、だが自分達とは違う世界の存在だと思っていた。それが目の前で自分の頬を触っている。
「ねぇ、返事は?」
 奈緒はちょっとイラついた口調でもう一度奈緒に声をかけた。
「し、質問って……」
 あかりは恐る恐る声を出した。
「聞いてるのはこっち、ハイかイイエで答えなさい」
「は、はい」
 あかりは蚊の鳴くような声で答えた。
「もう、天城とはやった?」
「え?」
 あかりは質問の意味がわからなかった。
「愛しのいっちゃんとセックスしたか聞いてるのよ!」
 奈緒は声を荒げる。
「し、してません……」
 あかりは顔を真っ赤にして答えた。
「キスも?」
「……」
 あかりは無言になった。
 伊知郎とのキスは何度か経験していた、しかしそれは二人の秘め事で他人に話す事ではないし、話したくもなかった。
 奈緒はあかりの制服のネクタイを外しながら、もう一度聞いた。
「したの?」
 あかりは無言のままだった。
「仕方ないわね、ちょっと恥ずかしい目にあってもらおうかな」
 奈緒が目配せすると、あかりの両脇にいる女たちが制服のブレザーを脱がし出した。
「や、やめてっ」
「ヤメロ!」
 あかりと伊知郎の声が響く。
「うるさいわね、黙らせな」
 奈緒は女たちの一人にあかりのネクタイを渡す。受け取った女は伊知郎の後ろに回りそのネクタイで伊知郎に猿轡を噛ませた。
「さて、外野は黙ったことだし、続きをしましょ」
 そう言ってあかりのブラウスのボタンに指をかけた。
「や、やだ……」
「じゃあ、教えなさい、キスした?」
 奈緒は息がかかるほど口を奈緒の耳に近づけて質問を繰り返す。
(な、なんで、なんでこんなこと聞くの? あたしたちをこんな所に連れ出してまで、聞くようなこと? 警察に捕まるかもしれないのに……)
「あんっ」
 突然、奈緒があかりの耳の穴を舐めた、あかりは思わぬ刺激に嬌声を上げる。ぞわぞわと背中に鳥肌が立つ。
「言わないと、もっとエッチなことするわよ」
 耳元でささやく奈緒、ブラウスのボタンは何時の間にか全て外され、ブラジャーがわずかに見えていた。
「……ました」
「え? 聞こえないわ」
「しました……」
 うつむいているあかりの目から、涙がこぼれ床を濡らし始めた。
「何をしたの? ちゃんと言いなさい」
「キスしました」
「誰と?」
「い、いっちゃんとキス……う、うぅぅぅぅ」
 そこまで言うと、あかりは恥ずかしさと屈辱感で号泣してしまった。
 伊知郎は立ち上がろうとするが、数人に女たちに足で踏み押さえられて、身動き一つ取れずに呻き声を出しているだけだ。
「やっぱりしたんだ……で、ここは? 触ってもらった?」
「や、あぁ……」
 奈緒はあかりのブラウスに右手を手を差し込み、成長し始めたばかりのまだ硬さの残る胸を、ブラジャーの上から優しく揉みだした。
「答えなさい、してもらった?」
「……」
 あかりは無言のまま頭を振った。
「口に出して答えなさいって言ったでしょ」
「い、痛い」
 胸を強く掴まれ、あかりは悲鳴を上げた。
「さ、されてません」
「ふ〜ん、まだなんだ……じゃあさ……」
 奈緒はブラジャーの中に手を差し入れた、まだ誰の物にもなっていないなだらかな膨らみにに直に触れ、その先端のわずかな突起に、指を絡ませた。
「こんな事とかされてないんだ?」
「や、やあぁ!」
 あかりの悲鳴が狭い店内に響く、それを聞いた伊知郎が身体を起こそうとするが、取り囲んでいる女の一人に腹につま先蹴りを入れられのた打ち回る。すると他の女たちも容赦無く顔面や腹に蹴りを入れまくった。目蓋は腫れ上がり開かなくなり、鼻は潰され鼻血が止まらなくなり猿轡を噛まされていることもあり呼吸が困難になる。口から、耳からも血がたれ流れる。肋骨も何本か折れているだろう。伊知郎は全く抵抗が出来ぬままぼろ雑巾のようにされてしまった。
「やべ、死んじゃったかな?」
 女の一人がピクリとも動かなくなった伊知郎を見てつぶやいた。
 他の女たちもざわめきだった。
「どうしよう、奈緒さん……」
 この街の夜を支配しているといっても、奈緒以外はたいして喧嘩の強いやつも肝が座っている奴もいないる、完全に奈緒に依存して奈緒の威を借りてのさばっている奴らだ、殺人という大罪に絶えられるような者はいなかった。
「お前等今日のことは忘れろ、始末はあたしがつける、しゃべった奴は自分がこうなると思え」
 奈緒はそう言うと、自分以外のメンバーを帰らせた。
 店内に残ったのは奈緒とあかり、そして動かなくなった伊知郎だけだった。
「いっちゃん、起きて、いっちゃん……」
 あかりが伊知郎にすがりつき泣きじゃくる。どうみても伊知郎は死んでいるようにしか見えない。
「こっちへ来い」
 奈緒はあかりの腕を引っ張る。
「やだ、いっちゃんが、いっちゃんが……」
 悲鳴を上げて低こするあかり、だが鍛えぬかれた奈緒の腕力に敵うはずは無く、テーブル上に仰向けに倒された。
「じきにまた目が覚めるさ」
 声と共に店の置くから新たな人間が現れた、身長は百九十センチを越え、床まで届きそうな黄金の髪、そして女神像のように美しいく神々しい顔、服装はタンクトップ、皮パン、ロングブーツと黒尽くめでタンクトップのしたからはまるでNBAプレーヤーのような鍛えぬかれた筋肉が見える。
 まるで神話の中から甦ってきたような男だった。
「その前にお前を目覚めさせてやる」
 男はそう言うとあかりの足元に立った。
「炎(えん)……」
 奈緒が男に声をかける。
「まだ準備が不充分なんだけど……」
 奈緒が言うと、炎と呼ばれた男は奈緒の身体を抱き寄せて、耳にそっと囁くように言った。
「なに、お前みたいに可愛がってよろうってわけじゃねえ、目覚めさせる事だけが目的だ、準備なんてどうでもいい、泣こうが叫ぼうがな」
 そう言って炎はあかりの首を右手で締める。そして苦しむあかりが両手で炎の手を外そうともがいている所へ、左手をスカートに突っ込みパンティを引き裂いた。
「んっん〜〜〜んっんっ!」
 あかりは絶叫を上げようたが、首を締められ声にならない。炎はスカートの裾を捲り上げまだ若草が生え始めたばかりの秘密の丘に手を伸ばす。
「へへっ、ちょっとは湿ってるじゃんか、奈緒に乳首弄られて感じたな?」
 あかりは首を締められながら涙を流して、嫌々をするように頭を振る。炎はあかりの顔も見ずに奈緒と唇を交わしながら、左手であかりの幼い秘部を弄んだ。
 炎はあかりの首から手を放すと、体をひっくり返してうつ伏せにし尻がテーブルの恥にくるまで引っ張った。
「さて、女にしてやるぞ」
 そう言い、そそり立った男根をズボンから出すとあかりの秘部にあてた。
「いや! やめて! 助けていっちゃん!」
 貞操の危機を感じ必死に助けを請うあかり、しかし伊知郎は血を吐いて気を失ったままピクリとも動かない。炎はあかりの腰を両手で掴むと、一気に腰を突き出しあかりを貫いた。
「いやぁーーー!!!」
 あかりの絶叫が店内に響き渡る。
 雷が駆け抜けるような衝撃が股間から脳天まで突きぬける。
「痛いよっ! ママッ! いっちゃんっ! 助けて…… 痛い、痛い……」
 涙を流しながら気が触れたように叫ぶあかり。それでも炎はガンガンとあかりに巨大なペニスを打ち付ける、その度に子宮に杭でも打ちつけられたかのような衝撃があかりを襲った。
「いたい、いたい……タスケテ……」

 声がする……
 幼い頃から危機親しんだ声……
 誰だ?
 俺を呼んでいる……
 この世で一番大切な人が……
 !! 助けを呼んでいる……
 あかり?
 あかりが助けを呼んでいる……
 泣きながら……
 あかりが……泣いている……

 いつも助けてくれていた……
 幼い頃近所の上級生の悪がきにいじめられた時も……
 はじめてメガネをかけて同級生にからかわれた時も……
 忘れ物をして先生に怒られたときも……
 野良犬に追い掛けられた時は、何処からともなく現れて助けてくれた……
 助けを呼べば何時でも隣にいてくれた……まるで半身のように……

 あかりは炎に犯されながらもじっと伊知郎の顔を見つめ助けを呼びつづけた。伊知郎は絶対助けてくれる、何があっても、どんな状況でも……必ず。

「……っちゃん……」
 あかりの声?
「いっちゃん、助けて!」
 助けを呼ぶ声に伊知郎は目を覚ました、腫れていたはずの目蓋はすでに開き身体も何処も痛くない、まるで炎が燃えているかのように身体中が熱かった。
 身体が軽かった、五感が信じられないほど冴え渡っている。散々蹴られ殴られて怪我だらけのはずなのに……
 顔を上げるとあかりが泣きながら自分の事を見ていた、見知らぬ金髪の人間があかりに覆い被さって身体を動かしている……
「助けて、痛いよ、いっちゃん……」
 あかりの言葉で伊知郎は一瞬に状況を察した。

 伊知郎が目を開けた、炎に犯されつづけてすでに一時間は経っている。その間炎は一度も達していない恐るべき持久力だがあかりにはそんなことはわからなかった。
 声が枯れてもただただ伊知郎の名を呼びつづけていた、そしてついに伊知郎がその声に反応し目を開いた。
「助けて、痛いよ、いっちゃん……」
 あかりは最後の力を振り絞って口からそう発した。

 上半身を縛られているにもかかわらず、伊知郎はまるでマリオネットのように跳ね起きた。両腕に軽く力を入れるだけでロープが紙のように引き千切れた。
「やっとお目覚めね? 起きたのはどっち? いっちゃん? それとも……」
 間に入って喋り出した奈緒の言葉が終わらぬうちに、伊知郎は一瞬に円の背後に周りその神々しいまでに美しい金髪に手をかけると、引き千切らんばかりに引っ張った。
「この"俺"を犯すとは、イイ度胸をしているな」
 伊知郎はそう言って炎を背後に放り投げる、炎はカウンターの反対がわに頭から落下した。
「起きたのは「ラ・ギューム」のようね」
 奈緒は嬉しそうにつぶやく。
「大丈夫かあかり?」
 伊知郎は奈緒の言葉を無視し、あかりを助け起こした。
「い、いっちゃん……あたし……ゴメンね、ゴメンね……」
 あかりは伊知郎に抱き付き泣きながら謝りつづけた。伊知郎のために大事にしていたものを何処の誰かもわからぬ男に奪われた悔しさが心の痛みや身体の痛みより大きかった。
「悔しい、悔しいよう……あんな奴、あんな奴……コロシチャッテ……」
 あかりは顔を上げた。眼鏡の奥の瞳には漆黒の闇のように明かりがなかった。
「殺しちゃってはないだろ、せっかく起こしてやったのによ」
 そう言いながらカウンターから炎が身を乗り出す。
「そうよ、これから楽しいイベントを考えてんだから」
 奈緒が腰に手をやって赤毛をなびかせながら割って入った。
「イベントだと? くだらない物に参加する気はない」
 伊知郎はそう言いながらブラザーを脱いであかりに肩から掛けた。
「俺はこのまま人間として一生を全うするつもりだったんだ、覚醒など余計なお世話だ」
 取り付く島もなく伊知郎は炎と奈緒を拒否した。
「ちょっと、前世で暴れまくった仲じゃない、少しは話し聞いてよ」
 奈緒は店を出て行こうとする伊知郎の肩を掴んで引っ張ろうとするが、伊知郎が肩を軽く動かしただけで弾き飛ばされてしまった。
「前世がなんだ、人のことを犯しておいて仲がどうだのこうだの言うんじゃねえ。だいたい貴様と俺では格が違う、手下だとは思っても対等な仲間だと思ったことは無い」
 伊知郎は奈緒を睨みつけた。
「あ、あんた、本気で怒ってるの?」
 唖然とする奈緒。
「当然だろ、ここまでコケにされて怒らない方がどうかしている」
「やっぱり、二人とも殺しちゃいましょ、この身のほど知らず」
 そう言うあかりのスカートから伸びる足には破瓜の血の跡が残っている。
「死んじゃえ!」
 そう叫ぶとあかりは奈緒に体当たりを食らわせた。内は衝撃で店の隅まで弾け飛ぶ。
「きゃははははっ」
 あかりは狂ったように笑いながら一瞬で倒れている奈緒に馬乗りになった。
「死んじゃえ、死んじゃえ!」
 馬乗りになったあかりは奈緒の顔といわず腹といわず殴りまくった。
(や、ヤバイ)
 奈緒は必死にガードしようとするが態勢が悪すぎ殆どの打撃をもろに食らってしまった。格闘技のテクニック以前に根本的なパワーが違いすぎる、このままでは間違いなく撲殺される……奈緒は死を覚悟した。
「死ね! 死ね! 死ね!」
 あかりは奈緒の紅い髪の毛を掴んで顔面を床に打ち付ける、なおの均整の取れた顔が見るも無残に腫れ上がっていく。
 あかりは立ち上がると髪の毛を掴んだまま奈緒を振りまわし投げつけた。
「お前も、同じ目にあわせてやる」
 そう言ってテーブルの脚を信じられない怪力でへし折り、倒れている奈緒の足元に進むとパンティに手を掛け引き裂いた。
「な、何する……い、いやぁ!」
 奈緒は絶叫した、あかりは手に持っていたテーブルの脚を折れ目の方から有無言わさずに奈緒の秘所に差し込んだのだ。一気に子宮にぶつかるまで。
「い、痛い、ぬ、抜いて……」
「あたしも、あたしもそう叫んだのに、あんたはニヤニヤして見ているだけだった……」
 あかりはそう言うと残酷にも奈緒の秘所に付きさあっているテーブルの脚を蹴飛ばした。
「ぎ、ぎぃぃぃぇぇぇ」
 奈緒は断末魔のような悲鳴をあげた。

「彼女が苦しんでるぜ」
 伊知郎はニヤニヤしながら炎と対峙している。
「あのままじゃアソコが使い物にならなくなんじゃねえの?」
 あかりと奈緒を横目で見ながら伊知郎は言った。
「"や、止めろ"」
 炎の顔には冷や汗が出ている。
「お願いなら、俺じゃなく"あかり"に言えよ」
「お前も彼女も同じだろうが、半身だろお前等」
「そうだよ……その俺の半身をお前は汚したんだ」
 そう言いながら伊知郎は炎に向かって進んだ。
「どう言うつもりか知らねえけど、作戦は失敗だよ、俺は自分に手を上げた奴を許すほど出来た奴じゃねえんだ」
 伊知郎の両拳から突然イナヅマのような光りが発すると、炎に向かって突き進んだ。炎はそれを紙一重でかわし炎の鞭を発生させた。
「誇りだけは高いようだな」
 つぶやく炎。
「他人に平伏すほど神として堕落した覚えもないのでな」
 伊知郎はそう言うと伊知郎の周辺に複数の雷球が発生した。
「さすが、雷神……電気を操るのは十八番か」
 炎が炎の鞭を振る、雷球の一つが鞭とぶつかり相殺すると別の雷球が炎の四肢に直撃し炎を弾き飛ばしす、カウンターに激突する炎、しかしカウンターにぶつかったダメージはないようだ。
「完全な妖魔か……たかが妖魔の分際で神にちょっかいを出すとは良い根性しているな」
 伊知郎がそう言って右手を掲げ手のひらを広げるとそこから無数のイナヅマが発生し炎に襲いかかる。炎はかわしきれずにその内のいくつかの直撃を受けた。
「ぐ、ぅぅぅぅ」
 部屋の中をのたうちまわる炎、彫像のような顔は苦痛に歪み金髪は黒く焦げている。
「ち、畜生……神といっても身体は人間じゃねえか!」
 炎がそう言うと見る見る彼の身体が変形していった、身長は天井に届くほどまで巨大化し手足は丸太のようは太さになり全身が銀色の鱗でびっしりと埋まり、頭からは鹿のような角が生えてきた。
「へ〜……貴様そこまで化身できるのか。竜まで後少しだな、残念だ……ここで死ななきゃならないとは」
 伊知郎は平然と半竜人と化した炎を見上げた。
「減らず口もそこまでだ、人間の肉体が俺の攻撃に耐えられるか?」
 そう言って拳を振り下ろすが、伊知郎はあっさり横っ飛びでかわし、あかりの傍らまで飛んだ。
「ちょっと気持イイけど、我慢しろ」
 伊知郎はそう言うとあかりの胸元に右手を差し込んだ。
「あ……」
 絶句するあかりが見守る中、伊知郎の手はまるで神霊治療のように手首まであかりの体の中に埋め込まれた。
「い、イイ……」
 あかりは突然の快感に体を痙攣させよがった。伊知郎が手を身体に刺した瞬間に信じられないほどの快感が全身を襲ったのだ。下着を着けていない秘裂からは物凄い量の愛液が足首まで……いや、既に足元に水溜りを作るほどまでに流れ出ている。
 伊知郎がゆっくりと手を引き抜くとそこには諸刃の剣が握られていた。
「あ、あぁ……イッちゃう! イッちゃう! イッちゃう! ああ、だ、だめぇ!」
 伊知郎が剣を完全に引き抜くとあかりは絶叫しその場に崩れるように倒れこんでしまった。両手が自然に胸と股間に行き、絶頂の余韻を楽しむかのようにゆっくりと蠢いている。
「そ、その剣が……雷王剣!」
 炎の目は驚きを隠せなかった。この数千年の間に何百何千という妖魔や退魔師を葬った伝説の神剣。
「知っているか……じゃあ、この剣と相対して生きている奴がいない事も知っているな」
 伊知郎が剣を振り上げると炎は半ばヤケクソのような怒声を発しながら伊知郎に向かって突き進んできた。目の色一つ変えずに伊知郎が剣を振りほろすと炎は真っ二つに切り裂かれ断末魔もあげることが出来ずに絶命した。
「この程度の力で神と対等な関係になろうとは……愚かな……」
 伊知郎は炎の屍骸を見下ろしつぶやいた。

 はるか昔その強大な力で、まだ文明らしきものを築き始めたばかりの人間たちに、「神々」と崇められ君臨してきた種族がいた。「神々」らの「糧」は人間の「精」すなわち生命のエネルギーだったため存在を維持するのに人間が絶対に必要だった。
 人間たちは「神々」に自らの「精」を代償に様々な恩恵を受け、知識を得、文明を発達させた。「神々」は人間から受けた精が強大なものになりその力が自分たちで制御し入れぬほどの物になると自らの力に恐れ人間との接触に距離を置くことにした。自らが創った「異なる空間」に引きこもり、よほどの理由がない限り人間たちの世界へ現れることはなくなった。
 しかし、何処の世界にも他人とは違うことをしたがる者たちがいた。一部の者達は「異なる空間」に引きこもることを拒み自分達の魂を人間に転生させ、この世で生きる事を選んだのだ。
 雷神「ラ・ギューム」もそんな神の中の一人だったが彼はその中でも力が強大過ぎたために、自ら魂を人間の男女へと二つに分けた。
 ラ・ギュームは何回かに一回の転生で眷属たちを引き連れて人間界に災いをもたらした。神といっても身体は人間の物のためにその度に強力な妖魔を使役する複数の退魔師によって敗れ去っていた。彼にとってはそれは遊びの一つに過ぎなかったために敗れても別に復讐などは考えてなかったが、退魔師たちは彼を何時しか伝説の悪魔のように畏怖していた。
 そして現在、最後に彼が暴れてから百年の歳月が流れていた。

 あかりは下半身を剥き出しのままテーブルの上で倒れていた。伊知郎が雷王剣をあかりの体内に再び戻したときの快感で気を失ってしまったのだ。
 奈緒は股間から血を流しながら床で気絶している。
 伊知郎は倒れている半身の傍らに座り誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた……

To be continued

もどる

動画 アダルト動画 ライブチャット